top of page
「これはアシュリーじゃない。ハリエットの遺体なんだ……!」
レイモンドの言葉に、モーガンが口元を手で覆う。
ロードリックは近くにあったシャベルを手に取り、言った。
「なんにせよ、ハリエットの墓を暴いてみればわかることでしょう」
はたして、ハリエットの遺体は墓にはほとんどなかった。
血に濡れた頭部だけが、冷たい土の中に埋まっているだけだった。
「でも、あの遺体は、お腹に赤ちゃんがいたよ。ハリエットは妊婦さんじゃなかったよね?」
「あれはな、モーガン。多分、お前がいなくなったって言ってた子牛だ」
「そんなぁ……。アシュリーが墓荒らしとか、子牛を殺すとか、するはずないのに」
現実を受け止めきれない様子のモーガンをロードリックは淡々とした口調で諭す。
「私たちがまずやるべきことは、生きているはずのアシュリーを探すことではありませんか?
探し出せば、どうしてこんなことをしたのか聞くことも、罰することもできますから」
「そうだな。きっと何か理由があるはずだ」
「でも、どこ探せばいいのか全然わかんないよ」
ロードリックは「私に心当たりがあります」と言うと、二人に背を向けて歩き出した。
二人は慌ててその後を追う。
ハリエットの家には誰もいなかった。
しかし、火事の直前にロードリックが見た景色と違い、窓は大きく開け放され、カーテンがはためいていた。
ロードリックはそれを不審に思い、慎重に窓へ近づいていく。
その時、一際強い風が吹いて、カーテンがめくれ上がった。
「ロ、ロードリック! 危ない、何かいる!」
モーガンが叫ぶが、ロードリックは大丈夫だと言うように手をひらひらと振った。
窓際の小さな机の上で、小さなもぞもぞ動く生物が布にくるまっている。
その小さな手は紙の切れ端をしっかりと握っている。
ロードリックがそれに手を伸ばすと、小さな生き物は火がついたように泣き出した。
ロードリックは苦笑する。
「指のない男は怖い、ということでしょうか。レイモンド、あなたが手紙を読んでくださいませんか」
言われて、レイモンドはそろそろと手を伸ばした。
真っ赤な目と頰をした赤子は驚いたような顔で父親を見た。
bottom of page