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​◯True End

レイモンドはしばらくの沈黙の後、我が子をそっと抱き上げた。

「俺には殺せないよ」

この子の母親は俺の大切な妹を殺した。
そのことは到底許せないし、許すべきことでもないだろう。
でも。
「アシュリーの言う通り、この子に罪なんてないだろ」
レイモンドの指を掴もうとして赤子が腕の中で暴れるのを、宥めながらレイモンドは言う。
「もちろん、この子が人狼になる可能性もあるってわかってるさ。
でも、どうにかしてやれるんじゃないかって思うんだ。
もし俺たちが人狼であるこの子と共生していけたら、それはきっと世界の希望になる。
もう二度と、アシュリーの起こしたような悲劇が繰り返されない世の中を、俺たちが作っていくんだよ」
「なあ、お前もそう思うだろ」と赤子に笑いかけると、母親によく似た笑顔が返ってくる。
いつかこの子に牙が生えてきて、獣の肉を求めるようになったら、俺の羊と牛を好きなだけ食べさせよう。
人間と一緒に暮らせるような子に育てていこう。
もしこの子が人間として生まれついたとしても、母親が人狼であったことはきっと隠さない。
母親が犯した罪とそれに対する俺たちの気持ち、それらを乗り越えてこの子を育てていくと誓ったこの日のことを、一つ残らず話して聞かせよう。


「二人は、この子を受け入れてくれるか?」
「ええ、もちろんですよ。
この子はきっと、私たちが共存する世界を作るために与えられた神の恵みなのですね。
私はこの子のためにこの村へ導かれたのかもしれません……」
そう言うロードリックの顔はいつもより老け込んで見えたが、口元は珍しく弧を描いた。


モーガンはすぐには頷けない様子だったが、ロードリックが賛成したのを見て、困ったような笑顔を作った。
「何が正解かなんてわかんないけど……たしかに、こんな小さな子を殺すなんてヒドイよね。
あたしも、なにかできることがあればやるよ」


三人はその日、ハリエットの家で一夜を明かした。アシュリーの置き土産は三人に見守られながら、静かに眠った。
赤子はその後、大きな病気や怪我をすることなく成長したが、アシュリーがその様子を確かめに村に戻ってくることはついになかった。
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