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「正直に言ってくれ。お前は人を殺したのか?」
ルイスが聞くと、アンジェリーナは両手を顔の前で激しく振った。
「まさか! 私がどうしてそんなことをすると思うの」
「俺もお前がやったとは考えたくはないのだけれどね」
「どうすれば疑いを晴らせるかしら? ええと、でも、本当にやってないのよ」
アンジェリーナが困ったように記憶の糸を手繰り寄せているそのとき、玄関の前で甲高い女児の声がした。
「ほんとだよ! わたし見たの、リンダは人狼だったの!」
ざわめきが家を囲うようにして広まって行くのが聞こえる。
窓の外には無数のカンテラの炎が不安を煽るように揺らいでいた。
家は静まり返った。
「嘘、今、なんて?」
「なるほど。そう考えると、うむ、そうか……考えたくはなかったけれどね。
リンダ、そうなのか」
リンダは俯いて、消え入りそうな声で「うん」とだけ答えた。
「そうだったか」とルイスはぎゅっと顔をしかめる。
「いいか、アン、お前は今すぐ子どもたちを連れて裏口から逃げなさい。
父さんが彼らと話しているうちに」
その言葉にアンジェリーナは真っ青になって立ち上がり、呆然としているフィルとリンダを立たせた。
「待って、母さん、どこに行くの。父さんはどうするの」
「いいから行くんだ、フィル。そしてリンダ、お前は今日起こったことをよく覚えているんだ。いいね?」
リンダは怯えた表情で父の言葉に頷いた。
「父さん! 父さんも行こうよ!」
「フィル、いい加減にして。リンダの手をしっかり握って、もう行かなきゃ」
「だって……どうして、僕たち人狼は生きるために食べるだけなのに、逃げなきゃいけないんだ!
母さん、父さんは殺されちゃうよ、人狼だってだけなのに。
僕たち、今まで誰も傷つけてこなかったのに!」
「フィル!」
ルイスが怒鳴った。フィルは驚いたが、怯まなかった。
自分は何も間違ったことを言っていないとばかりにルイスを挑戦的に睨みつけた。
ルイスは自分からは考えられないほど賢く育った息子の顔を優しい眼差しで受け入れる。
「フィル、怒りは大勢を悪人にしてきた。度が過ぎたそれはしまいなさい」
「……でも」
「フィル、賢いお前ならわかるはずだ。これは仕方がない。そういうものなんだよ」
ルイスは力強くフィルの背中を押す。
思わずよろめいたフィルの腕を、泣きそうな顔をしたリンダが掴み、裏口へと誘った。
「ここでは俺たちが悪なんだ」
閉じていく裏口の扉の隙間で見えなくなっていくルイスが呟いた言葉をフィルは聞き逃さなかった。
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