16:00
アシュリーを小屋へ閉じ込めたあと、
俺とモーガンはハリエットの遺体を家から運び出して、共同墓地に埋めた。
首がグラグラして、いまにも取れそうだったから、
下手なりに、俺がハリエットの家にあった針と糸を借りて繋げた。
遺体の不自然で不格好な縫い目はひどく痛々しかった。
今考えると、ハリエットは裁縫が上手だったんだな。
裁縫道具は、綺麗に洗って、ハリエットに持たせた。
一緒に埋めてやるから、天国でも好きなだけ縫い物してくれよ。
埋めたあと、俺はしばらく墓の前に座っていた。
モーガンも、俺のそばにずっといてくれた。
17:00
村長からアシュリーの意識が戻ったということを聞いて、
アシュリーのいる小屋へ向かった。
「アシュリー?」
俺が呼ぶと、中からおずおずと声が返ってくる。
「レイモンド……」
「なあ、正直に言ってくれないか。君がやったのか」
「レイモンド、ごめんなさい……」
それきり、小屋の中からはアシュリーのすすり泣きだけが響いた。
18:00
愛する妻に人狼の疑いがかかっている。
俺にはハリエットの死に打ちのめされている時間はなかった。
村長の家に行き、村長の蔵書で人狼について調べさせてほしいと頼むと、
村長は頷いて、俺を家に招き入れた。
調べると、俺はほとんど人狼について知識がなかったことに気づかされた。
・人狼は、好きな時に変化することができる。
ただし、稀ではあるが、本能的に人間から狼に変化することがある。
・狼の姿でいるときも人間の知能を有している。
・狩りの時は、まず獲物の息の根を完全に止めてから肉を食べる。
村長は何枚か本からページを破りとって、何処かへ出かけていった。
指先のない手は不便そうだ。
たしか、都会で働いていたときに事故で失ったとか。
この村で育った男の中には外に出て働く人もいるが、
そうして出ていった人たちは基本的に帰ってくることはない。
ロードリックはたしか俺が子供の頃に出て行った。
ロードリックはどうして帰ってきたんだ?
ずいぶん性格も変わったし、体だって弱くなったみたいだし、何よりあの手だ。
19:00
引き続き村長の家で人狼について調べていた。
・人狼は獲物を確実に殺してから、骨以外のほとんどの部位を食べる。
人肉を食べなくても生きていくことはできるが、ほとんどの場合栄養失調になる。
人肉以外の動物の肉も食す。
・人狼の子供は10歳ほどになるまでは人間の子供との相違点はない。
10歳前後で人狼としての能力が目覚めるが、
目覚めなかった場合、幸いにもその子はただの人間である。
人狼と人間のハーフについては前例が少なく、研究は進んでいないが、
能力覚醒の確率が下がると予想される。
20: 00
もう日は沈んでいるはずなのに、窓の外が明るいことに気づいた。
外を見ると、アシュリーのいる小屋の方角から炎がチラチラ見えた。
火事だ、とすぐにわかった。
俺は読みかけの書物もそのままに、一目散に村長の家を飛び出した。
急ぎすぎて、転がっていた石につまずいたくらいだ。
モーガンは俺たちより少し遅れて小屋に到着した。
息が切れていたが、遠いところから走ってきたんだろうか。