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終幕「無知」
「『夜蜘蛛』……やはりお前が犯人だったか」
丑之助が無駄のない動きで刀を抜き、音太郎にその切っ先を向けた。
「俺は政府からお前を斬るように言われている役人だ。ここでお前を斬ってやる」
ここらが潮時か。
音太郎は、うなだれて、肩をすくめて見せた。
自分は犯人ではないが、ここで濡れ衣を着ることになるのなら、今が年貢の納め時というやつなのだろう。
「いいよ。斬れよ」
音太郎はそう言って目を閉じる。
丑之助は「すぐ終わらせてやる」と言って、刀を高く振り上げる。
そして、勢いよく音太郎に向かって降ろした。
「…………え」
いつまで経っても自分に何も起こらないのを不思議に思って、音太郎は目を開けた。
そこには血溜まりの中に倒れるハツの姿があった。
「え?」
混乱する音太郎に、ハツが血に濡れた唇から想像もしなかった言葉を叫んだ。
「逃げて!」
その言葉に音太郎と丑之助は同時に動き出す。
丑之助は今度こそ音太郎を始末しようと刀を構えるが、音太郎は持ち前の身軽さで攻撃を避け、夜の闇に紛れ込む。
丑之助は舌打ちをしてそれを追うが、一度闇に紛れた音太郎を見つけるのは至難の技だろう。
後には満足げな顔のハツの遺体と、「……ま、俺は蚊帳の外か」と呟くヨシが残された。
【終】
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