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​終幕「身代わり」

「音太郎さん、あなたが犯人ですね」

丑之助がそう言うと、驚くべきことに、ハツが「違います」と言った。

「私です。私が吉兵衛さんを殺してしまいました」

「ハツさん……?」

突然の告白に唖然とする三人に向かって、ハツはしっかりと頷いて、続ける。

「吉兵衛さんの、その、夜のお誘いがしつこかったのです。

断ろうとして、勢い余って……」

ハツは項垂れる。

ヨシと音太郎は同情の意を隠せない様子だが、丑之助だけは、犯人は処罰されるべきだと言った。

「処罰? ここには役人もいないのよ。あたしたちですることじゃないと思うけど」
「役人を呼ぶまでここに足止めされるのは、俺はごめんだ」
宿泊客たちの言い分に、丑之助は逡巡したのち、口を開いた。
​「俺がその役人だ」
「夜蜘蛛」が警戒を強めてしまうのを危惧して自分から言うのを避けていたが、仕方ない。
この宿に「夜蜘蛛」がいると決まったわけではないし、第一、目の前の殺人犯を放っておくことは役人としてできないだろう。
丑之助はハツを連れてすぐさま都へ出発した。
ハツは都で裁判を受け、その後監獄に収容されるだろう。
ヨシは夜明けに都へ立ち、音太郎は故郷へ向けて足を早めた。
 
ハツは音太郎が向かって行く方角にそびえる山々を仰いだ。
これでいい。
音太郎は無事に帰れただろう。
​【終】
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