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終幕「乖離」
「丑之助さんが犯人なのね?」
ヨシが丑之助に問う。
「違う。俺は、そこの『夜蜘蛛』を斬るために来た役人だぞ、どうして主人を殺す必要がある?」
「でも、丑之助さん以外に考えられませんわ」
無実を訴える丑之助を横目に、三人は、ここで丑之助を処刑することに決めた。
役人を呼んで都の裁判所まで連れて行くには、あまりに逃亡されるリスクが大きいからだ。
ヨシが処刑係に名乗り出て、背中に背負っていた立派な得物を丑之助に突きつける。
しかし、処刑される直前、丑之助が抜刀し、音太郎に向かって吠えた。
「俺は『夜蜘蛛』を始末するまでは死なん!」
ヨシが丑之助の首をはねるのと、丑之助の刀が柔らかな肉に深々と突き刺さったのはどちらが早かっただろうか。
音太郎が気づくと、目の前にはハツと丑之助が倒れていた。
「トヨ!」
慌ててハツを胸に抱く。
ハツは息も絶え絶えに音太郎の頰に手を伸ばした。
「逃げて」
音太郎は年甲斐もなく涙をボロボロとハツの顔に落とした。
ハツはくすぐったそうに笑い、その少しゆがんだ顔のまま、息を引き取る。
「俺は、お前が無事なら、それでよかったのに。俺がどうなろうと、お前さえ元気でいてくれれば……」
朝日が宿の中を照らしても、音太郎は顔も上げずに泣き続けていた。
【終】
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