top of page

終幕​「人柱」

「丑之助さんが犯人なのね?」

ヨシが丑之助に問う。

「違う。俺には動機がないだろう」

「でも、丑之助さん以外に考えられませんわ」

無実を訴える丑之助を横目に、三人は、ここで丑之助を処刑することに決めた。

役人を呼んで都の裁判所まで連れて行くには、あまりに逃亡されるリスクが大きいからだ。

ヨシが処刑係に名乗り出て、どこから取り出したのか、立派な得物を丑之助に突きつける。

丑之助も死ぬわけにはいかない、と抜刀する。

死闘が繰り広げられそうな気配に、音太郎はハツを手招いて、そっと宿を抜け出した。

二人が宿を抜け出すと同時に、中から激しい足音が聞こえてくる。

「……危なかったな」

「助かりました」

ハツは音太郎に頭を下げる。

「またあなたに助けられてしまいました」

音太郎が怪訝な顔をした。

「何の話ですか」

ハツは朗らかに笑って言った。

「いいんです。旅は長いんだから、その間にゆっくり思い出してくれれば」

「ええと、話が見えないんですが」

「それもいいの」

「えー……」

困惑する音太郎をよそに、ハツは楽しそうだ。

宿の中から聞こえてくる足音が途絶えているのにも気づかずに、二人はしばらく、外で話し込んでいた

​【終】

bottom of page