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終幕「蜘蛛​」

「ええ、そうです。私が殺しました」
ハツはあっさりと自分の罪を認めた。
「吉兵衛さんは音太郎さんの正体に気づいておいででした。だからーー殺したのです」
殺人の動機に自分の名前を出されて動揺するのは音太郎だ。
たしかに自分の正体はあの「夜蜘蛛」だが、それを気づかれたところで、どうしてこの女が宿の主人を殺すことに繋がるのだろう?
音太郎が考え込む間に、丑之助は腰の刀を抜いて、高らかに宣言した。
「俺は政府の言いつけで『夜蜘蛛』を追っていた役人だ。
『夜蜘蛛』はもちろんのことだが、ヤツに協力する輩も放ってはおけない。
悪いがここで斬らせてもらうぞ」
ハツは「こうなる覚悟はできていましたわ」と呟くと、音太郎を守るように丑之助の前に立ちはだかった。
「音太郎さん、お逃げになってください。私、あなたを追わせはしないわ」
音太郎はハツを信用していいものかどうか迷う。
しかし、音太郎の正体を守るために殺人まで犯したというハツが今更裏切るとは思えず、
「ありがとう」と言い残すと、一目散に宿を出て行った。
「待て!」と丑之助が叫ぶ。
「丑之助さん、あなたの敵はまず私ですわ」
丑之助は歯軋りした。
「夜蜘蛛」が一度闇に紛れれば、追跡は難しい。
ハツをすぐに斬り捨てたところで、もう間に合わないだろう。
腹立たしいのは、ハツがそれをわかっていて、斬られるのを待っていることだろうか。
自分の役目は終わったと言わんばかりの晴れやかな顔で立っている。
「クソ!」
​丑之助は八つ当たりのようにハツを斬った。​
ハツの目から涙とともに、命がこぼれ落ちていく。
​ハツは走馬灯を見た。
​【終?】
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