ハツで間違いありませんか?
【正体】
私は、その昔、地方の貧民街に住むトヨという子供でした。
その頃、私の面倒を見てくださった五つ上の男の子は、自分と私を養うために盗みを働いていましたわ。
盗みは良くないことに違いありませんが、彼が私の命の恩人であることに違いないのです。
ですから、もし、彼が牢獄から出てきたときは、今度は私が彼を守って差し上げると誓っております。
彼の本名も姿もはっきりとは覚えていないのです。
けれど、今日会って確信しましたわ。
ああ、この方が、私のお守りするべき「夜蜘蛛」だーーと。
【宿泊客たちの印象】
丑之助:お仕事中かしら? ピリピリしていらっしゃるわ。
ヨシ:お風呂にお誘いしましたけれど、断られてしまいましたわ。あまり人付き合いがお好きではないのかしら。
音太郎:手遊びをする癖は相変わらずね。私のことを見ても何も思わないようなのは悲しいけれどーーもうあなたは私のことを忘れて、自由にお成りなのだわ。けれど……私がトヨだとお教えしたら、彼は思い出してくれるかしら。
【事件前後の行動】
12:00~12:30 吉兵衛さんにお部屋に置いておくお水を頂きに行った帰り、深夜だというのにうろつく丑之助さんに会いましたわ。もし「夜蜘蛛」をお探しなら、音太郎さんが危ないわ。私はお部屋にあった筆と紙をお借りして、音太郎さんに手紙を書きました……伝わるかしら?
12:30~1:30 就寝。お隣の部屋の音太郎さんに常に注意を払っていましたけれど、一度部屋を出て、戻ってきた音が聞こえただけでしたわ。
1:30~2:00 戸を叩く音がしましたので、出ましたら、真っ青な顔をした吉兵衛さんが立っていました。私が都から来たということでお話をしたいとおっしゃられたので、食堂に行って話しました。吉兵衛さんは、「夜蜘蛛」が音太郎さんではないかと感づいてらっしゃいましたわ。誰か噂話をお話しになったのね……私は「夜蜘蛛」をお守りしなければなりません。申し訳ありませんが、吉兵衛さんを殺そうと決心しまして、彼の部屋で話そうと提案致しました。
2:00~2:30 吉兵衛さんの部屋で話すうちに、彼が気付のために酒を飲むと言い出しました。彼が部屋の奥の箪笥から酒を取り出そうと背を向けている隙に、私は脱ぎ捨ててあった彼の割烹着を被って、護身用にいつも着物の帯に挟んである小刀で彼の首を掻き切ったのです。大きな音を立てて倒れないように、彼を抱きとめ、床に寝かせ、割烹着を脱いで風呂場へ捨てに行きました。
2:30~3:00 小刀の血を拭ってから割烹着を風呂場の脱衣所へ隠し、鏡で自分の顔を見ました。着物には返り血は浴びなかったのですが、顔や手についてしまったものを洗い流しました。 小刀はいつも通り帯に挟み直しました。人を殺してしまいましたけれど、これは大切なものですから。
3:00 吉兵衛さんの部屋の明かりがゆらゆら揺れているのを見ましたので、中に人がいるのではと思い、戸を開けましたら、丑之助さんが遺体のそばにうずくまっていました。そのことにも驚きましたけれど、私は遺体を初めて見たと言わんばかりに叫び声をあげて見せましたわ。
【証拠・証拠品】
吉兵衛さんの部屋にある高価なものなどは手つかずのままですわ。
【目標】
メイン:音太郎の正体を隠し通す。
サブ:自分が犯人であることを隠し通す。