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​終幕「また来世で」

「犯人はハツさんだな」
​丑之助がそう言うのと同時に、音太郎がハツの手を掴んで叫んだ。
「トヨ、逃げよう!」
そのまま二人は駆け出す。
丑之助は慌ててその後を追った。
後に残されたヨシは「なんだってんだ……?」とため息交じりに零す。
女のハツを庇いながらでは、音太郎は丑之助の追跡を撒ききれなかった。
二人は崖の上で寄り添い合うように立って、丑之助を迎えようとしていた。
「音太郎さん」と何か言いかけるハツを音太郎は遮る。
「謝ったりするな。
お前は何も悪くない。俺を助けてくれたんだから」
「でも……」
「いいんだ。むしろ、俺の方が謝らなきゃな。お前を巻き込んで……」
今度はハツが遮った。
「あら、私たちは助け合うべきだって言ったのはあなたよ」
「……参ったな」
二人は笑い合う。
​そしてそのまま、空中へ踏み出した。
夜明けの光が二人を包んで、呼応するように水面が煌めいた。
「朝蜘蛛ね」
ハツが風切音に負けないように叫ぶ。
「そうだな、朝蜘蛛だ」
音太郎も同じくらい大きな声で怒鳴った。
崖の上で、丑之助は二人の姿を見送っていた。
​【終】
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