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​◯prologue

​晴天、風なし、少し暑い。
とある国の山奥にあるデリック村の広場にある掲示板には、毎朝村長による天気予報が貼り出される。
たった五人しかいない村人は、朝になるとわらわらと出てきて、それを確認する。
今日も例に漏れず、村人たちは掲示板をチェックした。
そこには天気予報をはじめ、村人からの細やかなお知らせなど、様々な紙が貼り出されている。
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お知らせしたいことを自由に貼り付け、それに対する返事も書き込まれる。
​おかげで閑散としたこの村も、掲示板だけは賑やかだった。
「レイモンド、いい加減、剥がさない? 恥ずかしいわ」
張り紙がされてから随分経ち、アシュリーのお腹が順調に大きくなってきた今でも、
レイモンドが感極まって書いたお知らせは未だに掲示板に残っていた。
「ダメだ! みんなもお祝いメッセージ書き込んでくれてる記念の張り紙だぞ。
もうすぐ生まれてくる子にも見せないとな」
レイモンドはアシュリーの肩を軽く叩く。
アシュリーが困った顔をしていると、他方の肩にハリエットが手を置いた。
「いいじゃないですか。この張り紙を見る度に、私も幸せになるわ。
本当にあと数日もしないうちに会えるかもしれないなんて、嬉しいわ」
「ねえ、兄さん?」とレイモンドを見上げると、
「さすが俺の妹だ! わかってるな」とレイモンドが豪快に笑う。
「でも、お義姉さんを困らせるのはほどほどにしてね」
「はい……」
三人が掲示板の前で話に花を咲かせていると、山から若い女が降りてきた。
「おはよー! なんの話ー?」
「モーガン、今日も朝から山へ行ってたのね」
モーガンと呼ばれた女は快活な笑顔を一瞬引っ込めたが、すぐに取り戻して、
「見回り、大事だもんね」と肩をすくめた。
​それに対してレイモンドも「ああ、全くだな」と困った顔をした。
そこへ、「みなさん、おはようございます」と最後の住人が姿を現した。
村長のロードリックである。
​村人たちは口々に挨拶を返すと、彼は十の指先が全て切断された手を振って答える。
毎朝変わらぬ光景。
守られ続けている平和は、この日、破られようとしていた。
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