16:00
今日の午後は日差しが照りつける。僕の予想は見事的中した。
この様子だと、父さんの水筒の中身は今頃空っぽだろうな。
僕はそう思って新しい水筒を家から少し距離のある仕事場にいる父さんへ届けに行った。
「ありがとう。フィル、お前は俺と違って勉学が得意なんだな。天気予報までできるなんて」
天気予報は最近の僕の特技だ。
僕の頭をがしがし撫でる父さんは嬉しそうに笑った。みんな喜んでくれると僕も嬉しい。
僕は父さんの腕に新しい傷がついているのを見つけて、大丈夫か尋ねたけれど、父さんはそんなに痛くないから大丈夫だと言った。
「さっき木にぶつけて擦りむいただけさ」
「でも、傷が化膿したら大変だよ」
僕の説教じみた言葉に、父さんはまた嬉しそうに笑って「そうだな」と言った。
16:30
父さんに水筒を届けて帰る途中、先週あたりに母さんにうつされた鼻風邪がぶり返している気がしてきた。
母さん、僕、喘息持ちだから、勘弁して欲しいんだけど。
案の定、家に着く頃には喘息の症状も出始め、僕は家に着くと、そのままベッドに潜り込んでしまった。
安静にしていれば問題ないからと思って読みかけの本を読んでいたら、母さんが来て、「寝てなきゃだめでしょ」と本を取り上げて家の外に隠しにいってしまった。
母さん……恨むぞ……。
17:00
段々具合が悪くなってきたと思ったら、突然喘息の発作に襲われた。
外で遊ぶより本を読む方が好きだから、喘息持ちだってことがそこまで嫌になったことはないけど、やっぱり、こういう時は苦しい。
母さんは看病してくれていたけど、あんまり僕の具合が悪く見えたのか、慌てて外に出て行ってしまった。
母さんは20分くらい戻って来なかった。
帰ってきたときには手ぶらだった。いったい何をしていたんだろう。
17:30
気を失うように眠っていた。
家の中は静かだったけれど、二度玄関のドアが開いた音がした。
母さんは家にいなかった気がする。
夢を見た。
僕が博士になって、人狼が人間を食べずに生きていく方法を発見する。
痩せた僕の家族は僕のおかげで健康になるんだ。
18:00
目覚めると家には誰もいなかった。
ずいぶん体が楽になっていたから、本を取り返しに家の外へ抜けでた。
無事見つけたけど、母さん、頼むから表紙の色が似ているからって食糧庫の人参に紛れさせるのはやめてよね。どうせそんなところだろうと思ってたけどさ。
10分くらい出ていたけど、母さんに多分バレてない……よね?
本を見つけて帰ってきても母さんはまだ家にいなかったけど、少ししてから水を汲んだバケツを持って帰ってきて、僕の部屋に水差しを持ってきてくれた。
その少しあとにリンダも帰ってきたらしかった。
18:30
本の続きを読もうと思ったら、僕を心配したリンダがベッドのそばに来て最近あったことを話してくれた。
僕は学校に行っていないから、リンダの話を聞くのは楽しい。
学校に行かないのは僕が男の人狼で、狩りを学ぶ方が重要だから……らしい。
でもそんなのってやりたい方をすればいいと思うんだ。
だって現に僕は狩りより勉強がしたい。僕はうまく狼に変身するのが苦手だし。
父さんは「やらなきゃいけないと思う気持ちがあればうまくいくものだ」って言うけれど、
それが本当なら僕は一生狼になんてなれない。
わがままだってわかっているけど、どうせ狼にならなきゃいけないなら、僕は命を狩るためなんかじゃなくて助けるために変身したい。
人間みたいに勉強をして、研究者になって、人狼と人間の共生の道を探せたら、本当はそれが一番いいんだけど。
どうして許されないんだろう、こんな些細な願いなのに。
そんな事を思いながら、母さんに言われたら困るからリンダから本を隠して、話を聞いていた。
僕の幼い妹は時々ベッドの中の僕に暗い表情を見せながら、明るい話をした。
リンダ、どうかそんな顔をしないで。お兄ちゃんは、別に辛くないんだよ。
君みたいな優しい妹が気にかけてくれるだけで、僕は幸せだ。
19:00
夕飯ができたという母さんの声で、僕ら兄妹はダイニングルームへ向かった。
美味しそうなスープが湯気を立てていた。
リンダが目を輝かせて「いい匂い!」と言っていたけど、
僕は鼻が少し詰まってるみたいでわからなかった。
って、うわあ。
母さんに伝言頼まれてたの忘れてた。
父さんに「夕飯用のお肉を持ってきてちょうだい」て言わなきゃだったんだ……。
【目標】
犯人に投票する。
本を取り返したことを隠す。